「聖職者か芸術庇護者か」ケルン選帝侯が夢中で築いた白亜のロココ宮殿

アウグストゥスブルク宮殿(Schloss Augustusburg)は、ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州ブリュールに位置する18世紀の建築の傑作です。

この宮殿はバイエルン出身のケルン大司教であり選帝侯でもあったクレメンス・アウグスト・フォン・バイエルンによって建造されました。

彼はヴィッテルスバッハ家の一員として宗教的かつ政治的権力を握りながらも実際には政治や聖職よりも狩猟や芸術庇護に情熱を注いだ人物でした。

その結果、彼の治世は領民に負担を強いるものだったと伝えられていますが、その芸術への貢献は高く評価されています。

宮殿は1725年から建設が始まり約40年の歳月をかけて1768年に完成を見ました。

1984年には隣接するファルケンルスト狩猟館とともにユネスコの世界文化遺産に登録され、その文化的・建築的価値が国際的に認められています。

アウグストゥスブルク宮殿の建設には当代随一の建築家や芸術家が動員されました。

最初に中世の城跡を利用して設計を手がけたのはヨハン・コンラート・シュラウンでバロック様式の堅牢な基礎を築きました。

その後、1728年からはフランソワ・ド・キュヴィイエが後を継ぎフランスからもたらされた軽やかで優美なロココ様式を宮殿に吹き込みました。

特にキュヴィイエは宮殿のファサードや西翼、パレード・ルーム(主人のための部屋)の設計を担当しフランスの影響を強く残すことになります。

さらに、1740年からはバルタザール・ノイマンが参加し宮殿の中心とも言える豪華な階段室を設計しました。

この階段室は碧玉をはめ込んだ大理石柱、純白の彫刻やレリーフ、繊細なスタッコ(化粧漆喰)細工、そしてイタリア人画家カルロ・インノチェンツォ・カルローネが手がけた天井フレスコ画によって構成されドイツ・ロココ様式の頂点を示す空間となっています。

宮殿の建築様式はバロックの重厚さとロココの優美さが融合した独自の性格を持っています。

宮殿は南北と中央の三つの翼からなる「コ」の字型構造をしており全長約110メートルに及ぶ建物は3階建てでマンサード屋根を戴きます。

外観はバロック様式の対称性と動的な曲線を基調としつつも北ファサードにはペディメントや四角柱が存在しないなど意匠的な革新も見られます。

内部ではロココ様式の影響が色濃く各室は金箔やスタッコ細工、色大理石を用いた豪華な装飾で埋め尽くされています。

特に謁見の間や磁器タイルが美しい食堂、音楽ホールなどは見応え十分です。

また、宮殿は1994年までドイツ連邦大統領による国賓接待の迎賓館としても使用され、その歴史的な役割の重要性もうかがえます。

宮殿の南側にはフランスの造園家ドミニク・ジラールが設計したシュロス庭園が広がります。

この庭園はフランス式庭園(平面幾何学式庭園)の典型でヴェルサイユ庭園の影響を強く受けた整形式のデザインを持ちます。

幾何学的に配置された花壇(パルテール)、噴水、運河、生垣が調和し、宮殿の壮麗さをさらに引き立てています。

19世紀にはプロイセンの宮廷造園家ペーター・ヨセフ・レンネによって一部がイギリス式風景庭園に改められましたが1930年代にロココ様式の計画に基づいて中心部が復元され現在も当時の華やかさを伝えています。

この庭園は市民の憩いの場としても親しまれ時折小動物の姿も見られる穏やかな空間です。

宮殿から東へ1キロメートルほど離れた地点には同じくクレメンス・アウグストが愛用した狩猟の館、ファルケンルストが建っています。

こちらはキュヴィイエ設計による比較的小規模な建物で鷹狩りを楽しむための別邸として1740年に完成しました。

外観はカントリーハウス風の素朴さを持ちますが内部には漆の間をはじめとした華やかな装飾が施されロココ様式と共にクレメンス・アウグストの東洋趣味(シノワズリ)を反映した意匠も見られます。

館内の階段室には鷹狩りの様子を描いたタイル画が残され当時の狩猟文化をしのばせます。

アウグストゥスブルク宮殿とファルケンルストはドイツにおけるロココ様式の最初の重要な作品として、その後1世紀以上にわたって宮殿建築の模範となった点で、また18世紀のヨーロッパにおいて強大な権力と富を握った聖界諸侯の生活様式を伝える顕著な例として世界的な価値が認められています。

宮殿ではクラシックコンサートが開催されるなど文化遺産として積極的に活用されています。

訪問する際はケルン中央駅から在来線で約20分のブリュール駅が最寄りで駅を降りると眼前に宮殿が姿を現します。

城内見学はガイドツアーのみ可能で写真撮影は禁止されていますが日本語オーディオガイドを利用すれば理解を深められるでしょう。

ケルン大聖堂からも近いためドイツの歴史と美を堪能する旅の一日として、ぜひ訪れてみることをお勧めします。

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