時を超えた地下の迷宮コム・エル・ショカファのカタコンブが語る古代アレクサンドリアの多文化交響

コム・エル・ショカファのカタコンブは、アレクサンドリア南西部の「カルモズ」地区に位置する古代地下墳墓群で、2世紀のローマ帝国支配時代に造営された複合宗教施設です。

1900年にロバが地面に穴を踏み抜いた偶然の事故で発見され、その後の発掘調査によってヘレニズム文化末期のエジプトで異なる文明が交差した稀有な遺構として注目を集めました。

地下30メートルに及ぶ3層構造を持ち、最下層は現在も地下水に浸かっているため未公開ですが螺旋階段を降りた先の中央広間からは、ギリシャ・ローマ様式のアーチとエジプトのヒエログリフが共存する壁面装飾が現れます。

特に、冥界の神アヌビスがローマ軍の鎧を纏った像やメドゥーサの彫刻とファラオの葬儀文が隣接するレリーフは当時のアレクサンドリアが多文化共生の拠点であったことを物語っています。

建設背景には、プトレマイオス朝時代から続くギリシャ系住民とローマ支配下で勢力を保ったエジプト土着信仰の融合プロセスが反映されており、キリスト教普及前夜の葬送文化を解明する鍵として考古学者の関心を集めています。

2002年には地下水の浸食や都市開発の影響で「危機にさらされる世界遺産100選」に登録されましたが、排水システムの整備と保存修復プロジェクトにより現在は一般公開が継続されています。

観光的には、ポンペイの柱から南へ1.5キロメートルの距離にありアレクサンドリア中心部から車で15分程度のアクセスが可能です。

内部は湿度が90%を超え、らせん階段の段差が不均一なため滑りにくい靴と懐中電灯の携帯が推奨されるほか狭い通路が続くことから閉所恐怖症の人には注意が必要です。

近年では2016年の地中レーダー探査で未発見の副室が検知されるなど、新たな発見の可能性を秘めた遺跡として学術的にも観光的にも重要な位置を占め続けています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です