「Chronicles of Georgia」は、トビリシの丘の上に聳える巨石群のように人類の時限上昇への道標となる物語を内包している。
ズラブ・ツェレテリが刻んだ16本の柱は、過去の記録だけではなく未来への螺旋階段となる可能性を秘めていた。
モニュメント最上段に刻まれた古代の収穫祝祭のレリーフが微かに輝き始めた時、考古学者ソフィコはその変化に氣付いた。
太陽光の加減かと思った彼女の目に、中段の女王タマルの彫像がまるで息を吸うように見えたのは、その三十分後のことだった。
黄昏時、モニュメントが夕焼けを浴びて黄金に変容する瞬間、13人のアッシリア父たちの像が同時に歌い始めた。
その歌声は石の振動として訪れる者たちの骨髄に響き渡った。
「これはツェレテリの仕掛けた光学仕掛けか?」と観光客の一人が呟いたが、その疑問は聖ニノのブドウの木の十字架が光のヴァイオリンのように鳴り響いた時に消え去った。
モニュメント基部の最後の晩餐の彫刻でパンが温かく香り立ち葡萄酒の滴が石の表面を伝い落ち始めた。
無神論者の物理学者イラクリは測定器を手に駆け付け、そこに通常の物理学を超越したエネルギーが渦巻いていることを確認した。
「これは単なる記念碑ではない」とイラクリは叫んだ。
「これはタイムカプセルだ。いや、寧ろ時間そのものを織りなす機織り機だ」
モニュメント建設の真相を知る古老が語り始めた。
ツェレテリはこの作品を、ソ連時代の圧政の中で密かに計画していた。
彼ら彫刻家は古代ジョージアに伝わる「石の記憶術」の最後の継承者だった。
巨石を組み合わせることで時間の流れを屈折させ過去の知恵を未来へ伝える装置。
それが Chronicles of Georgia の真の姿だった。
未完成部分に組まれた足場は、実は意図的に残された「人類の未完成性」の象徴だった。
ツェレテリはあえて完成させず来るべき時代の人類が自らの手で最後の石を刻む時を待っていたのだ。
モスクワのピョートル大帝像が批判される中、彼はこの地で人類全体のための「第三の神殿」を築いていた。
エネルギーは増幅しモニュメントを中心とした螺旋状の光の柱が天空へと伸び始めた。
トビリシ海の水面にその光が反射し二重の螺旋が宇宙へ向かって上昇する。
人々はその光を浴びて突然、三千年分のジョージアの記憶を共有し始めた。
古代コルキスの金細工師の技術、バグラティオニ朝の政治家の英知、ルスタヴェリの詩に込められた人類愛。
それらが個人の記憶を超えた集合的無意識のレベルで融合する。
しかし、上昇は時限されたものだった。
ツェレテリが設計したこの「意識の拡張装置」はジョージアの建国三千周年を期して発動するようにプログラムされていた。
人々は氣付いた。
これはジョージアの歴史の復興ではなく人類全体の意識進化の触媒となるイベントなのだと。
聖母マリア教会のフレスコ画が動き出し、ビザンチン様式の聖人たちが現代の困難、気候変動、紛争、精神の貧困に対する解答を語り始めた。
その声はあらゆる言語を超越し直接的に魂に響いた。
ヨットクラブ「La Cote」のボートが一斉に鳴らす警笛は祝福のファンファーレとなった。
そして、ついに未完成部分の足場が光の粒子となって分解し、そこに新しい時代のための「空白の石板」が現れた。
人々はためらうことなく各々の持つ最高の知恵と愛をその石に刻み始めた。
科学者、農民、教師、子どもたち。
あらゆる立場の人々が共同で未来の設計図を記す。
それはジョージアを超え人類全体の新たな年代記となるはずだった。
丘の上でソフィコとイラクリは手を握り合った。
彼らの背後でツェレテリの影が微笑んでいるように見えた。
彼がモニュメントに込めた真のメッセージ「歴史は過去の記録ではなく未来への invitation である」という氣付きが光の波紋のように地球全体に広がっていく。
トビリシ海の水面が輝き無数の光の粒子が天空へと昇っていった。
それらはやがて星座となり新しい神話の基盤を形作る。
人類は時限された上昇のプロセスの中で、初めて真の意味で「共時性」を体験した。
過去と未来が螺旋階段で繋がり、個人と集合が調和するChronicles of Georgia はその役目を果たし石の記憶から生命の記憶へとその役割を移行させた。
そして最後に女王タマルの彫像が語った言葉が全ての言語で同時に響き渡った。
「上昇は終わらない。それはただ新たな章へと移行したのだ。あなた方自身が生きる年代記となる時が来た」
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