ニューポートの埋立地には今日もデジタル黄金の夢が眠り続ける。
イギリス・ウェールズ南部の港町ニューポート。
そこにある埋立地には、ある「デジタル財宝」が眠ると言われる。
2013年、地元のコンピューター技術者ジェームズ・ハウエルズが誤って廃棄したハードドライブには8,000ビットコインの秘密鍵が格納されていた。
当時はわずか5000万円程度の価値だったが12年後の2025年10月現在、その価値は1000億円以上に膨れ上がっている。
「あの日、すべてを失った」
ハウエルズはそう振り返る。
たった1秒の過ち、そして12年の闘い
ハウエルズがビットコインを採掘し始めたのは2009年、ビットコインがまだ暗号愛好家の間だけの実験的プロジェクトだった時代だ。
自身のラップトップを使い数ヶ月かけて8,000ビットコインを採掘したが、当時の価値はほとんどなくハードドライブはしまい忘れられていった。
運命の日は2013年6月から8月の間に訪れた。
オフィスの整理中、ハウエルズは重要なハードドライブを誤って廃棄してしまった。
氣づいたときにはすでに遅くハードドライブは地元の埋立地に運ばれ20万トンものゴミの下に埋もれてしまった。
ハウエルズは直ちにニューポート市議会に埋立地の発掘許可を求めた。
しかし市議会は環境への影響、コスト、法的問題を理由に要求を拒否し続けた。
彼が発掘費用を自己負担すること発掘で得られたビットコインの30%を市と住民に分配することを提案しても答えは「ノー」だった。
増大する損失、そして絶望
ビットコインの価値が年々高まるにつれハウエルズの損失は伝説的なものへと変貌していった。
2021年には約200億円、2024年には約1,100億円、2025年の時点で約1,300億円
数字は彼の苦痛を増幅させた。
ハウエルズはメディアに対し「これは私のフルタイムの仕事のようなものだ」と語っている。
彼は最新技術を駆使した発掘計画を提案した。
AI搭載ドローン、ロボット犬、機械アームを使い環境影響を最小限に抑えながらハードドライブを探すという計画だった。
さらにコロンビア号スペースシャトル事故のブラックボックス回収専門家を含むチームを結成し15億円以上の予算を確保した。
しかし市議会は頑なに許可を出さなかった。
法廷闘争、そして決定的な敗北
2023年、ハウエルズはついに約6,000億円の損害賠償を求めて市議会を提訴した。
彼の法律チームは埋立地の発掘を許可しない市議会の決定に対する司法審査を求めた。
しかし、2025年1月、高等裁判所の判事はハウエルズの主張を「成功の見込みがない」として却下した。
ハウエルズはAIを使って自分で訴訟を準備し控訴審に臨んだが2025年3月控訴裁判所も彼の訴えを退けた。
判決後、ハウエルズは「非常に失望している」と語った。
12年に及ぶ闘いが、ついに終わりを告げた瞬間だった。
埋立地の向こう側に見えるもの
ハウエルズの損失は個人の悲劇を超えたデジタル時代の象徴的な事件となっている。
専門家の推定では採掘された全ビットコインのうち約380万ビットコインがハウエルズのように失われたままとなっている。
これは約4兆円に相当するデジタル資産がパスワードの忘却やハードドライブの故障によってアクセス不能になっていることを意味する。
「ビットコインは非中央集権的で不可逆的であるように設計されています」
この特徴こそがハウエルズのような初期の採用者にとっては諸刃の剣となった。
銀行に「パスワードをリセットしたい」と電話することはできず管理者もいない。
自分で管理する責任と引き換えに完全な制御を手に入れるのだ。
「新たな始まり」デジタル財宝からデジタル資産へ
発掘を断念したハウエルズは新たな道を歩み始めている。
彼は現在、失われたビットコインを「デジタル担保」 として利用する新しい暗号通貨「セイニオグコイン」の立ち上げを計画している。
「埋立地は誰も開けられないが誰もが見ることのできる金庫になる」とハウエルズは説明する。
このプロジェクトは物理的にアクセス不能な資産にどのように価値を見いだすかという哲学的問いかけでもある。
さらにアメリカの制作会社LEBULがハウエルズの故事をドキュメンタリーシリーズ「ザ・バリード・ビットコイン」として制作する予定だ。
ハウエルズは「これが初めて自分自身の言葉で完全なストーリーを語る機会だ」と期待を寄せている。
デジタル時代の財産とその儚さ
ハウエルズの経験はデジタル資産を所有するすべての人々への教訓となっている。
バックアップとセキュリティは任意ではなく必須であること、所有権は責任を伴うこと、そしてデジタル資産の価値は想像を超える速度で変化しうること。
これらはすべてハウエルズが12年間の闘いで身をもって学んだことだ。
ニューポートの埋立地は2025年度中に閉鎖される予定だが、その地下に眠るハードドライブは初期ビットコイン採用者の先見の明と危険を象徴するタイムカプセルとして、これからも語り継がれていくだろう。
ハウエルズ自身はこう語る。
「市議会は10年間も有利な条件で交渉に参加するチャンスがあった。他に私は何をすればいいのか?」
その問いかけはデジタル時代の財産と所有権の概念そのものに向けられた重いメッセージなのである。
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