「ナギャド・ヤラ」と日ユ同祖論 ヘブライ語説とその背景
青森県新郷村の「キリストの墓」伝説にまつわる東北民謡「ナギャド・ヤラ」は古代ヘブライ語の進軍歌に由来するとの説が存在します。
この説は神学者・川守田英二氏の著書『日本ヘブル詩歌の研究』(1956年、八幡書店)で提唱され日本の民謡にユダヤの失われた支族の影響を見るものです。
1. 「ナギャド・ヤラ」のヘブライ語解
川守田氏は、「ナギャド・ヤラ」をヘブライ語として以下のように訳しています。
ナギャド ヤーラヨー 「前方へ ヤハウェ進み給え」
ナギャド ナサレダーデ 「前方へ ダビデ」
サーイェ 「仇を払わんとす」
ナーギャッ イウド 「ユダ族を先頭に」
ヤーラヨー「ヤハウェ進み 給わんことを」
この歌は前1447年のモーセのエジプト脱出時の行進歌に起源を持ち、前660年の神武天皇の時代に改作されたとされます。
川守田氏はユダヤの二支族がダビデ王家の王子(イザヤ書の「インマヌエル」)と契約の箱を携えて日本に渡来し神武天皇として新王朝を築いたと推論しています。
2. 日本各地の民謡とヘブライ語
川守田氏は「ナギャド・ヤラ」以外にも日本の民謡や祭りの囃子詞にヘブライ語的要素を見出しています。以下はその例です
| 囃子詞 | ヘブライ語解釈 | 文脈 |
|---|---|---|
| エンヤラーラヤー | われこそヤハウェを讃えまつらん | 神輿の信仰告白 |
| ヨーオン ヨーヤサー | ヤハウェは作り主なり、ヤハウェは救い給わん | 神輿の信仰告白 |
| ヤッショ ワッショ | 救い給え、彼必ず救い給わん | 祭りの掛け声 |
| イヤサガサッサーイ | 大いなるヤハウェは悪霊を退散せしめたり | 弥栄(繁栄)の祈り |
| エンヤラサッノ | われ推戴し奉らん、狭野之尊を | 木遣音頭(神武天皇を讃える) |
| ハモセ コレハモセ | 見よメサヤを 我ら推戴せよ、メサヤを | 木遣音頭(メシアを讃える) |
これらの囃子詞にはヤハウェの古名(「ヤー」「ヨー」「ヤウ」)やダビデ、ユダ族の名が含まれ北イスラエルで使われた「エローヒム」が見られない点が川守田氏の論拠です。
3. 聖書と日本への渡来説
川守田氏は聖書のイザヤ書を根拠にユダヤの二支族が前712年頃、ダビデ王家の王子(「エッサイの根株からの新芽」)を伴って日本に渡来し神武天皇として新王朝を築いたとしています。主な引用は以下の通りです
「エッサイの根株から新芽が生え…その上に、主の霊がとどまる」(イザヤ11:1-2)
「島々よ、わたしのもとに来て静まれ」(イザヤ41:1)
「東から猛禽を呼び出し…」(イザヤ46:11)
特に神武天皇の和名「カムヤマトイワレヒコ」の「イワレ」を「イハアレ(ヤハウェの霊我が上にとどまる)」と解釈し聖書の預言と結びつけます。
これにより日本は「新しいエルサレム王国」としてダビデ王家の永遠の王座を維持したとされます。
4. 学術的・民間的評価
学術的見解 言語学者や歴史学者は川守田氏のヘブライ語説を「民間語源」や音の偶然の一致とみなし否定的です。民俗学者・柳田國男や金田一京助は囃子詞を日本語や東北方言(なんでやら)に由来するとしヘブライ語の影響を否定しています。
民間的評価 新郷村や岩手県洋野町では「ナギャド・ヤラ」は盆踊りやキリスト祭の文化として親しまれ観光資源にもなっています。
マーヴィン・トケイヤーの見解 ユダヤ教ラビのトケイヤー氏は『聖書に隠された日本・ユダヤ封印の古代史』(1999年)で川守田氏の説に一定の関心を示しつつ「こじつけもあるが完全に否定できない」と述べています。
特にヤハウェの古名が頻出する点は北イスラエルの失われた十支族の影響を示唆するとしています。
5. 背景と文化的意義
「ナギャド・ヤラ」説は戦前の日ユ同祖論(酒井勝軍氏ら)や戦後のオカルトブームに影響を受け1950年代に川守田氏が全国的に広めました。
学術的根拠は乏しいものの青森の「キリストの墓」伝説や地域文化のロマンとして今なお注目を集めています。
地元では「意味はわからないが大切な言葉」として盆踊りや祭りで歌い継がれています。
6. 参考文献
川守田英二『日本ヘブル詩歌の研究』(1956年、八幡書店)
三村三郎『世界の謎 日本とイスラエル』(1950年、日ユ関係研究会)
マーヴィン・トケイヤー、久保有政『聖書に隠された日本・ユダヤ封印の古代史』(1999年、徳間書店)
7. 補足 調査の限界と今後の展望
川守田氏の著書はデジタル化されておらず詳細確認には古書入手や国立国会図書館の訪問が必要です。
学術的には方言由来説が主流ですが「ナギャド・ヤラ」の謎は地域のアイデンティティと結びつき文化的ロマンとして今後も語り継がれるでしょう。
+おまけ
ヘブライ語としての解釈「ナニャドヤラ」は、いくつかの部分に分けてヘブライ語のフレーズと考える説が存在します。
最も有名な解釈は以下の通りです。
· ナニャ (Nanya)
· נַנְיָא (nanya) というアラム語(ヘブライ語と極めて近いセム語)の言葉に由来するとされます。
· 意味「動かす」「移す」
· ドヤ (Do Ya)
· דּוֹיָא (doya) または דִּי יָה (di Yah) に由来するとされます。
· 意味「ヤハ(ウェ)の」 または 「このヤハ(ウェ)は」
· 「ヤハ」は聖書の神ヤハウェの短縮形です。
· ラ (Ra)
· この部分が一番解釈が分かれます。
· 説1: רַע (ra) で「悪」を意味する。
· 説2: רָאָה (ra’ah) の命令形「見よ!」を意味する。
· 説3: 単なる囃子詞(はやしことば)で特に意味がない。
代表的な訳の組み合わせ
これらのパーツを組み合わせると以下のような意味になるとされています。
1「動かせヤハウェ悪を」
· (Nanya + Do Ya + Ra)
· 厄払いや悪霊払いの呪文的な意味合い
2. 「ヤハウェ悪を移せ」
· 同上。罪や穢れを移し、清めるという意味。
3. 「見よ我々はヤハウェを動かす」
· より詩的な解釈。神に働きかける祈りの言葉。
この解釈が生まれた背景には「キリストの墓」伝説があります。
伝説の概要 イエス・キリストはゴルゴタの丘で磔にはならず弟のイスキリが身代わりとなりイエスはシベリアを経て日本の青森県(当時の蝦夷地)に渡来し106歳で没したという地元に伝わる伝説です。
「ナニャドヤラ」の役割 この地では、この言葉を囃子言葉として盆踊り(ナニャドヤラ踊り)で歌い継いでいます。この言葉が古代ヘブライ語であるという説はイエス(あるいは失われたイスラエル十支族)がこの地に来たという伝説を補強するものとして提唱されました。
※重要な注意点
学術的には否定されています 言語学者や歴史学者の大半は、このヘブライ語解釈を「民間語源」あるいは「偶然の一致」と見なしており学術的に立証された事実ではありません。
日本語との類似性「ナニャドヤラ」は日本語の「なんでやら」や東北地方の方言に由来するという説も有力です。
これは青森の「キリストの墓」というロマンに満ちた伝説と、それを裏付けるようにして生まれた独自の解釈です。
学問的には証明されていませんが非常に興味深く地域の文化を色濃く反映した面白い説であると言えるでしょう。
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