「偽りなく、確かで、真実なるものよ…」
トートのエメラルドテーブルはアトランティスの灰から昇華したヘルメス・トリスメギストスの声で宇宙の法則を蝕むように刻まれた。
その言葉は錬金術師たちを狂わせ、賢者の石を求めて炉の炎を燃やさせたが真の石は彼らの掌で蒸発する水銀のように、つかめぬままであった。
「上なるものは下なるもののごとし」
この一節が示すのは星々の軌道と血液の流れが同じ螺旋を描くという神々の戯れのような真理だ。
ピラミッドの暗室でモーリス・ドレアルが触れたとされる石板は実は彼のまぶたの裏側に閃いた幻で、それでも人々は大ピラミッドの影に古代の叡智を探し続ける。
ラテン語訳を紐解いたニュートンは万有引力の法則よりも重い何か物質を黄金に変える以前に魂そのものが変容する爆発的な原理に気付いていた。
彼の手稿には月の光が水銀を銀に変えるという記述の隣に祈りの言葉がにじんでいる。
黄金の夜明け団の儀式で囁かれるヘルメスの言葉はカール・ユングが診察室で聞いた患者の夢と一致する。
集合的無意識の深淵でエメラルドの石板は今も脈打っておりアラビア語からラテン語へ、ルネサンスの魔術師から量子物理学者へと、その解釈は形を変えて感染する。
ドレアルのフランス語版に追加された「アトランティスの13の水晶柱」という一節は明らかな創作だ。
だが神智学協会の蔵書室でその文を読んだある男は突然、自宅の地下室で鉛の塊をガラス容器に入れ三年間月光に晒し続けた。
彼は結局何も得られなかったが、そのガラスは今も曇りなく輝いている。
エメラルドテーブルが本当に伝えるのは解釈という名の錬金術だ。
石板そのものは存在せず、存在するのは、その文字列が脳幹に引き起こす不可逆な化学反応だけである。
錬金術師の炉は物質を変える装置ではなく彼ら自身の視神経を焼き直す装置だった。
「一者の奇跡を為せ」
この命令に従う者たちは結局、自分自身が実験台であることに氣付く。
テーブルの緑色の光は、解読者の網膜を透過し大宇宙と小宇宙を強制的に対応させる。
賢者の石など最初から存在しない。
存在するのは石を探す過程で変質する、あなたという唯一の元素だけだ。
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